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名も無き言葉たち 散文 詩
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君とのやり取りは困難で
声だけは聞こえるのに
大事な事は
二人の間で凍りつく
ぬくもりだけは通らずに
冷たく弾けた破片だけが
互いの元に届く
君との間の絶対零度

人とは他人とは
打算と利害と蔑み
刈り取られないように
自らの価値は
下を多くすることにより保つ

凍りついた指先は
壊死する前に砕け散る
誰かに触れることが
これほどの痛みを伴うのなら
氷壁の前で笑っていよう
真実を装って
誠実さを装って
君のために懸命になると
君を助けると言いながら
君との間の絶対零度を
超えていく勇気は持たない

無数の裏切りに塗れ
僕は君たちを許さなかった
穢れを教えてくれた他人を
憎み怒り従い潰された
自己などないほうがいいのだ
心を消して機械のように隷属できれば
これほど悲しむこともあるまいに
君との間の絶対零度は
命あるやり取りを無駄にした

自立することは
君とのやり取りの中に
ココロノヌクモリヲ
ウバイサッテイクコトナノカイ?
僕は絶対に忘れない
君が散々
僕を見下していたことを

拍手[2回]

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か細い糸で繋がって
毎日をつむぎ合う

小さな部屋同士を繋ぐ
細い線は
数多くのものを運び
ただひとつ
ぬくもりだけを欠いている

間違ったものを積み重ね
間違いだらけを探し当て
希望を信じて進む若さに
夢を重ね合わせている

辛苦に塗れていても
愛が消えるわけではなく
信じあった一筋の気持ちを
何日も持ち寄って抱く夜

裸電球がベッドの上で揺れる
出会った二人 貪り合い
食い尽くした後に残るもの
愛情と信じて疑わなかった

突き刺さった棘を抜こうと
互いの傷を舐めあって
力任せに抉ってしまい
余計に膿を広げた

水道から出てくる錆びた水
コップに浮かんだ爛れた血
獲得しようとして与えられたもの
いつしか汚れてしまう

あの日夢見た美しい大人は
見る影もなく遠くなった
汚れて生きることさえ
気に留めることさえなくなった

愛した人は消えた
愛すべきものも形を変えた
古い鉄で作られたワンルームは
飾り立てられごまかされている

ぬくもりだけを欠き
ただひとつ
自らの命だけを運んで
細い線は
今や心だけを運ばない

毎日をつむぎ合い
か細い線で繋がっている

拍手[1回]

道化師が踊っている
踊ることは楽しいのだと
死神の手のひらで踊る

人は飽きれば通り過ぎる
道化師の踊りに
付き合っている暇はない

ある青年は甘い果実を持っていた
よく熟していて香りもいい

仮面を被った道化師に
青年は言った
お金は払えないけど
果実をあげるよ

道化師は目もくれずに踊った
きっと踊りに飽きて
立ち去るだろう

青年は飽きずに見ていた
傍を通り過ぎる馬車の車輪
何頭もの牛を連れて歩く商人
チーズを売り歩く羊飼いの少年
神の救いを説く宣教者たち

道化師と青年を通り過ぎる
たくさんの人たちは
少しだけ見て
飽きれば去っていった

数々のものが腐敗し朽ちていく
市場の野菜も
晴れの日の湖畔のように輝く魚も
色とりどりの果実も
おいしそうな食事も
緑色の草原も
色を失い黒ずんでいく

道化師は踊りを止めない
青年は立ち去らない
ふと気づくと
青年の果実は腐っていない

しびれを切らす道化師
何故君は去らない
すると青年
まだ御礼をしていない
果実をあげるよ

道化師は道化を止めて怒り出す
いらないから立ち去れ
僕は迷惑している

青年は微動だにしない
でもおいしいんだ
とても甘い果実だよ

道化師は青年が悪魔にも見えてきた
お前は誰だ
僕は騙されない
お前など誰が信用するものか

道化師を騙した数々の人は
悪魔たちの手先で
甘い嘘に甘い餌
たくさんの幻を用意した

周囲のものは既に朽ち果てていた
世界の中で青年と果実だけは朽ちない

道化師は正体を現すことにした
仮面を取り去り
骸骨の顔をあらわにした
よく見ろ
僕は死神だ
ここで人間の命を奪うために
ずっと踊り続けていたんだ

青年はにこやかに言った
君は女の子だったんだね

死神は理解できなかった
頭がおかしいのか
それとも気でも狂っているのか
肉の朽ちた姿を見ても
死神だとわかっても
まだ君は立ち去らないのか
命を取るぞ
死んでしまうぞ

青年はひとつも怯えなかった
君は使い魔だね
死神に魂を持っていくと
元の姿に戻すと言われたんだね

骸骨の道化師は黙っていた
さらに青年は聞く
それで騙されたのは何度目だい?
騙されて騙されて
そんな姿になったのだろう?

何故それを知っている
骸骨の道化師は怯えた
事情を知っているのなら
きっと仲間に違いない

青年は果実を差し出す
騙してきた悪魔たちと同じ甘い匂い
今すぐかぶりつきたくなる
おいしそうな色合い

果実を食べてはいけない
次はどんな姿になって
酷い扱いをされるか
わかったもんじゃない

おいしいのに
青年は一口食べた
本当は君に全部食べさせるつもりだった
信用してくれないから少し食べてしまった
死なないし大丈夫だよ

何が大丈夫なものか
悪魔め
周囲の景色は灰色になって
既に色は抜けていた
世界はどんどん黒くなっていく
骸骨の道化師の後ろに
大きな死神の姿が浮き上がり
骨だけの手のひらに乗った道化師が
口を鳴らしていた

このまま一緒に地獄に落ちてもいいけれど
青年は嫌がらずに言うと
骸骨の道化師は怒った
そこまでして僕を貶めたいか
次はどこへ連れて行くつもりだ
もう罠になんかはまらないぞ

この果実は私の魂の一部
数多くあげられるわけじゃない
だから受け取って欲しい

道化師は言う
受け取る理由が僕にはない
青年は言う
私にはあげる理由がある

利害もないのにあげるなどとはおかしい
見返りを求めぬ行いなどあるものか
信じない信じない信じない

青年は果実を口に含み
口づけをして道化師にあげました
驚いた道化師の喉を果実が通り
腹の奥底に染み渡ってくのがわかりました

みるみる道化師の骨の表面に肉が戻り
赤々とした皮膚が浮かび上がってきました
死神の取引は
周囲を見渡すと黒々とした世界から
灰色の世界に戻っていました
それでも世界の姿は完全ではありませんでした

青年はどこに
見渡すと青年は消えかかっていました
ごめんなさい
本当はすべてあげなければいけなかったんだ
君が長く食べなかったせいで
私の精神は消耗してしまった
あの果実は魂の一部
それを分け与えたんだ

世界は完全には戻らなかったようだね
また持ってきたいけれど
しばらくかかりそうだ
君さえよければまた用意できる
でも離れ離れになるよ
死神の契約は破棄された
その代わり私と契約したんだ

道化師の女の子は叫びました
騙した騙した騙した
私は騙された騙された騙された
お前も悪魔の仲間だったんだ

青年は言いました
私は君を利用しない
ただ君の素顔を見たかったんだ

女の子は聞きました
それでどうする
青年は答えます
それだけだよ
聞いて女の子は驚きます
それだけのために
なぜこんなことをする
青年は首を傾げています
私にとってそれだけのことは
とても大事で幸せで嬉しくなることなのに
女の子は理解できませんでした

灰色の世界には人がいました
灰色の人たち
色のない品々
どうしてこんな場所に戻してしまったのか
青年のしたことがわかりませんでした

これからどうしたらいいの
私は灰色の世界で生きることに耐えられない
青年は困りました
それなら僕の手を繋いでいなよ
少しずつだけれど世界に色が戻る
半信半疑で女の子は手を繋ぎます
青年の手から力が流れ込んでくるのがわかりました
あなたは一体誰なの
私はあなたと契約して何をすればいいの

青年は言いました
私は錬金術を学んでいるもの
魔界の秘術を少しだけ知っていて
それを使ったんだ
果実を食べることで死神との契約は途絶えた
けれど君は私に魂の半分を与えたんだよ
でも何も望まない
君の自由にすればいい
信用してくれるのに時間がかかりすぎた
果実の効力も半減したし
私が少しかじってしまったからね

青年は懐中時計を出す
ここからは時間はデタラメに動き出す
誰かの心の時間かもしれないし
別の世界の時間かもしれない
滅びの定めに従いながらも
もはや素直な時間の進み方には従えない

女の子は謝りました
ごめんなさいごめんなさい
一生懸命してくれたあなたを疑って
最初から信じていればよかったのに

青年はほほ笑みました
裏切りに満ちた世界で
悪魔がはびこり聖職者すらも毒する
誰も信用できなくて当然だよ
私も魔術に手を出し
人間の世界から追放されたんだ
大司教の寿命を延ばすために
魔界の秘術を会得したけれど
目的が達成された後
悪魔信仰者として追われる身となった
君と同じだよ

この世界は虚無
何も残らないかもしれない
今だって一刻として朽ちていき
私たちは色あせた世界に引きずり込まれる
私たちが死なない代わりに
世界が代わりに死んでいくんだ

誰かを信じることは
勇気のいること
騙されないように
人を見るには
世界の色に騙されてはいけないんだ

女の子は青年の言葉の意味を理解できずに
ただうなずいていました
たとえ悪魔の手先だとしても
もう失うものなどないと思っていました
誰かを信じるには
心は押しつぶされそうに辛いけれど
ただひとつ
青年と世界の結末を見てやりたいと
ただその思いだけで
付いていこうと決めたのです

拍手[2回]

地獄の底の極寒で
閉じ込められて震える
一人の少女がいた

涙すらも凍らせ
心すらも深き氷壁へ
埋められ
番犬に見張られ
身動き一つとれず
助けられることを諦め
絶対零度に近い感情で
通り過ぎる人を見つめていた

通り過ぎるたくさんの人は
寒い寒い
ここにいると凍え死んでしまう
そう言って
少女を見ながら一言
「かわいそうに」
というだけで
何一つ助けることもせず
視線を向けたあとは
興味がなくなったかのように
みな足早に通り過ぎた

地獄に落ちた人々は
みな私利私欲にまみれていて
自分が助かることばかり考え
少女のことなど考えなかった

少女は一人で泣き続け
そして涙すらも流れないほど
すべてが凍り付いて
深く閉じ込められていった

声も出せない氷壁の中の少女は
毎日祈っていた
夢を見ることだけでもいいだろうと
毎日夢想していた
助からないのなら
せめて夢の中だけでも

ある日ふと通り過ぎた男が居た
氷壁の中から見える男の姿は
はっきりとは見えなかった
もしかしたら他の亡者たちと一緒
そう思いながらも
心の声を出してみた

すると男は立ち止まり
氷壁へ手を触れ始めた
ここは厚い氷の中
両手だけでは
とても地獄の氷は
溶かすことは出来ない
少女は諦め混じりに
珍しいことをする男を見ていた

男は根気強く
毎日毎日
氷に触れ続けた
そしてある日ようやく
少女の指先だけが出た

「かわいい指先だね。ようやく出てきた」
男は少女が埋まっていたのを
知っていたかのように語りかけた
あれだけ地獄の氷に触れ続けたのに
なおもあたたかな手の温度が
指先から少女の心へと
静かに伝わってきた

あなたはここに居るべきではない
私にかまわないで
私は呪われた女
あなたを想えるだけでいい

心の中で必死に願いながらも
男の存在は大きくなりました
男は諦めずにずっと氷に触れ続け
ようやく少女の顔が
見えるようになりました

「ようやく見えた。美しいお嬢さん」
少女は自分のことを
ずっと醜いと思っていました
醜いと罵られ
地獄の氷の牢獄に閉じ込められ
長年暮らしてきた少女にとって
男の言葉は嘘に聞こえました

きっとこの男も
私を利用して
もっと酷い牢へと閉じ込めるのだ

しかしわからないことがありました
それならどうして
氷を溶かしたのか
なおも溶かし続けているのか
その両手で諦めもせず
毎日毎日触れ続けるのか
あなたは痛くないのか
冷たくて凍えてしまわないのか

少女は泣きました
酷いことをされるのではないか
亡者どもよりも
酷い悪魔なのではないか
怖くて不安でたまらなくて
たくさん泣きました

しかし男はその度に
少女から溢れ出て凍りつく涙を
両手で触れ続けて溶かしました
その両手は灼熱でもなく
少し熱い程度のあたたかさで
限りなく絶対零度に近い
地獄の氷壁を
少しずつ溶かし始めているのです

男が誰かを知る前に
想いはどんどん募ってきます
誰もこんなことをする人などおらず
ただ通り過ぎていくだけなのに
いったいこんなことをして
この男に何の利益があるのかと
不可思議に思いながらも
救い出してくれたらという期待と
自分の手で男に触れたいと
願う気持ちが
日に日に強くなりました

長い月日を経て
少しずつ凍りは溶け
動くようになった唇で
男と沢山の話をしました

地獄での日々の話
どうして氷壁の中へ
閉じ込められたか

それはそれは
聞くに堪えない
酷い酷い話でしたが
男は黙って
深く深く頷きながら
何一つ不愉快な顔をせず
真剣に聞いていました

そんな男の姿が
少女はすっかり好きになりました
好きでたまらなく
早く氷から出たいと願うようになりました
そして何年も経って
ようやく氷から出ることができ
男の体を抱きしめることができました

長年地獄の極寒にいたのに
体は冷えてもおらず
感じたこともないあたたかさで
少女を包みました

「ここから出よう。美しいお嬢さん」
男は変わらぬ笑顔で
変わらぬあたたかさで
少女の手を引きました
少女は男ばかり見ていて
気がつかないことがありました
「番犬はどうなさったの?」
地獄の氷牢地帯には
番犬がいたはずでした
「番犬の肉で飢えをしのいでいたんだ」
少女は驚きました
あの凶暴な番犬を既に倒していたのです
それもその肉で飢えをしのいでいたなんて
驚きを通り越して
法螺でも聞いているような気分でした
まるで実感がわかないのに
救い出されたことすらも夢のようで
何も実感がわかないまま
手を引かれ
ようやく地獄の氷牢地帯を出たのです

少女は奇跡にみまわれたようでした
ああ、でも
もし希望を持ち続けていたら
私の魂も死んでいたでしょう
こうして手を引かれ歩いていけるのは
もしかしたら希望を持たなかったせいかもしれない
と思いました
でも今はこの手を握り続けたい
強く感じるのでした

「行こうか」
男の優しい微笑と
強い瞳に
「はい」
と強く手を握り返し
少女は暗闇から出て行きました

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悲しみと
痛みと
夢を抱えて
暗闇に落ちて
死に絶える

夢の残骸は
憧れの焼け野原は
風が撫でている
無意味な風が

あれほどの愛は
どこへ消えたのか
あれほどの思いは
なかったのだろうか

探しても見つからず
なくした思いだけが
積み重なっていく

そのまま消えて
なくなってしまうのか
少しでも思い出として
心の隅に
本当に片隅に
残っていてくれるのか

ああ
君よ
遠き人よ
憧れとともに
消えていってしまった
好きな人よ

拍手[1回]

ふるふると
ゼリーのような心臓が
手のひらに乗っていて
怯えたように
ふるふると
震えながらも見つめてくる

少しだけ力を入れれば
潰れてしまうのではないかと
思ってしまうほどに
心臓は透き通っていて
指が軽くめり込んでいく

傷つけないように
命を奪わないように
とくんとくんと
脈打つ
やわらかな心臓を
潰さずに
傷つけずに
大事に守っている

拍手[2回]

追いかける
追いかける
孤島まで
君がいる
暗闇まで

コンクリートの壁をぬい
ビルに埋もれた空を頼りに
追いかける
君がいる孤島まで

いつからここに
うずくまっていたのか
手を握られることなく
凍えていたのか

冷たい体
死人のように
氷のように
指先は
冷たい

ひとつ命を使って
ひとつ命をあたためる
いつつ言葉を出して
欠片ほど届かせる

手を繋ごう
外を歩こう
眩しいかもしれないけど
目が痛くて
皮膚が太陽の光にも
チリチリと
痛むかもしれないけれど

冷たい指先を
握り続ける
離れないように
しっかりと
力強く

逃げそうな
逃げていった
その冷たい心を
追いかける
追いかける

世界の果ての
孤島の
闇深き洞窟まで

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人はわかっても
自分がわからない

人の言葉が
気になっても
自分の言葉は
何を与えたか
わからない

一秒先の
簡単なことさえ
わからず仕舞い

終わってからの
思考の
後出しじゃんけん
繰り返す

後出しじゃんけんで
人を責める

ずるいずるい自分
自分にすら
気がつかない

先走ってしまったり
勘違いしてしまったり
余計なお世話だったり
不機嫌にさせたり
よかれと思っていたのに
変なところに向かったり

あなたが好きでも
そうじゃないみたいに
伝わってしまったり

怖くなって閉じこもり
顔を伏せて震える
外の景色が見えなくなり
声に耳を塞ぐ

それでも
少しだけ涙がおさまったら
立ち上がり
笑えるように
ほんの少しの笑顔を
浮かべて
ふるまって
また歩みだす

また時間は過ぎる
心は強くならなくとも
立ち直る治癒を
時の流れに
感じながら

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臆病な少年は銃を手に取った
ナイフを持つ人間に刺される前に

些細な恐怖心から始まった
疑心暗鬼と孤独感
たくさんの裏切りと
優越感と
防衛反応から
こぶしを握る人間を警戒し
ナイフを手にした

少年は強くなった気がした
勇敢さを手に握っていると思った
体が武者震いした
何にでも勝てる気がして
初めて自分の存在を
誇示できるような気がした

少年は強くなって声を発した
声が聞き入れられることに
興奮を覚えた
しかし一方的な声に
心を荒立てるものが現れた
やがて増えて
少年と同じようにナイフを手にした

少年の声はたちまち届かなくなった
無視される恐怖心から
少年はもっと強さを欲した
このままやられてしまうのではないか
少年は仲間だと思っていた人間に
次々と手のひらを返され
誰も信用できなくなった

臆病さは想像をかきたてた
やがて妄想となり
少年の心を脅かした
一体誰が味方なのか
誰の言葉も信用できなくなった

臆病な少年は銃を手に取った
ナイフを持つ人間に刺される前に

前のように認めて欲しいと
自分の声を聞いて欲しいと
少年は銃を突きつけた
ナイフを捨てなければ撃つ
少年の脅しは通じなかった
お前のような人間を
認めるわけにはいかないと
周囲は口を揃えて言った

少年は恐怖に震えた
本気であることを見せつけようとした
臆病ではなく
勇敢であることを見せ付けようとした

少年は引き金を引く
仲間だった人間が一人息絶える
少年は理解できなかった
自分の言うことを聞いていれば
いや どうして僕は
弾丸を放ってしまったのか
ただ認めて欲しかっただけなのに
ただ声を受け入れて欲しかったのに

臆病な少年は
誰かの気持ちを考えることもなく
かつて仲間と呼んだ人間たちに
塗りつぶされて存在を失った

残されたものは
ノートの上にべったりと付いた
真っ黒な染みだけだった

拍手[1回]

声を聞きながら
いつの間にか眠る
心地よくて
抱かれるように眠る

起きてみれば
通話は途切れていて
目が覚めれば
夜の心地よさは
なくなっている

どこに行ったのと
手を虚空へ泳がせる
なくなってしまった声に
胸はチクチクと痛み出す

すり抜けてしまった
こぼれてしまった
ぬくもりたちが
地面に落ちてないかと
探し出す

また繋がってもいいですか
また抱かれてもいいですか
また声を聞きたい

寂しさと我慢と強がりと
月と雲と射光の淡さ
あなたを求める
暗闇の声なき叫び

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