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名も無き言葉たち 散文 詩
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数多くの視線に晒されて
私の居場所がなくなってしまう
レーザーのように
鋭く射抜かれて
私の体に穴が開いてしまう
避けようとして
私の体は歪んでいく
そのままの形でいられない
自分の形がわからなくなる
私が私のままでいたら
私の場所はどこにもなくなって
生きる世界すら追い出されてしまう
私の苦しみを共有するために
鋭い視線を掻い潜っている人たちと
ひっそりと語り合おうとして
私たちの違いに愕然として口を閉じる
私たちは苛立ちを感じあいながら
誰かの視線で歪んだ自分を卑屈に思い
視線の形に添って
機能的に動く誰かをどこかで羨む
攻撃的な戦争のような鋼鉄の視線に
心を射抜かれてしまったら
私はどうやって進んでいけばいいだろう
有刺鉄線の蜘蛛の巣が
迷路のように人生を阻んでいる
傷つかないように迷わないように
避けようと避けようと
ああ ここはどこだろう
気がつけばどこに行こうとしたかわからない
ただひとつ明かりがあったとしても
遠い 遥かに遠い
それでも命に背中を押されて
私はうずくまることを許されない
許してはもらえない

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同調を欲していた
一つになることを渇望していた
気がつけば深く強く
好きになればなるほど
ひとつになりたい
もっと自分と一体になって欲しい
感覚を一つに
痛みも喜びも価値観も
すべて分かち合い
完全な理解を

求めれば求めるほど遠くなり
諦めれば諦めるほど苛立つ
しょうがないよね
頭でわかっていても
衝動が止まらない
指を噛み 肉を切り
涙を流す 血を流す

君はどうして冷静でいられる
君はどうして気づかないでいられる
もっと理解を もっと同調を
私が憮然な顔になる前に

好きでもうまく伝えられない
愛してもどうしていいかわからない
もっとひとつに
でも君は別の人間
ひとつになれない苛立ちと
伝わらない感情と
言葉にできないフラストレーション
ちかちか花火のように瞬いて
眩暈の中で
目を閉じられずにいる

抱いて 抱きしめて
きつくきつく
愛して もっと愛して
心が揺らがないように
体が勝手に動かぬように
あなたの鎖でもっと縛り付けて
私を繋いで飼いならして
あなたにその力量と
強く深い愛情があるのなら

拍手[2回]

無数の波紋の打音
地上でぶつかり合う音
反響し合い
侵害し合い
音波がぶつかり合い
風のざわめく音は
かき消される
ざわりざわりと
散らされる

激しい水滴の
猛攻に
木の葉はうなだれ
土は削られ
華は散らされる
ざわりざわりと
蹴飛ばされる

見えぬ先の
深い灰色
くぐもった湿度の
無数の歌
動かぬブランコ
きしみもせずに
ボタボタと
涙を垂らす

かび臭い床を
嘗め回すように
じとりじとり
爪の間から

遊んでいた声は
また雨上がりに
今はただ
結ばされたものが
ばらばらに崩れ
滴り壊れ
再生を待つ

拍手[1回]

疑いから始めることと
信じることから始めることと

人は二つの入り口から
他者を評価しながら
疑いから始める人は
欠点だけをまず見つけ
信じることから始める人は
長所だけをまず見つけ
進めなかったり
進んだり
まるで何をどうしていいか
わからないほどに

いくつもの対比を繰り返し
優れているとか
劣っているとか

君が明日見る相手は
どちらかでしかなくて
評価したり付き合ったり
まるでシーソーゲームより
激しく不安定で
まるで明日を作るよりも
ひたすら安定を望む

どちらに転ぶ
明日はどちらだ
未来はどこへ
見えない
見つけられない
まるで
迷うよりも
道を探し続け
足元を見れず
焦るばかり

信じられるものは
どこにいったと
自分を無視し続ける

拍手[1回]

たくさんの言葉よりも
たった一度の抱擁がぬくもりを与えることがある

たくさんの触れ合いよりも
たった一言の言葉が心を動かすこともある

たくさん与えればよいものではなく
たった一つだけのことだけでも寂しくなる

言葉を並べれば
矛盾したことはたくさんあって

行動だけでは
不安になることはたくさんある

どうして私たちは
空を見るとき石につまづき
地に目を見張るとき空の広さを忘れるのだろう

どうして愛を行おうとせず
愛を語りたがるのだろう

どうして恋に憧れて
傷つくことを恐れるのだろう

遠くを眺めて
近くを見逃し
機会を逸しては
夢を見続ける

急ぐ必要はなくとも
歩みを躊躇する必要はない

手の届くものを手に入れて
私たちは空を目指す
バベルの子供たち

拍手[2回]

助けてくださいと
小さく叫んでいた
見知らぬ魂は
放っておかれた

一杯の味噌汁は冷め
ご飯は固まっていた
パンにはカビが生え
ミルクは腐っていた

おめかしして出かける
叫ぶ魂をよそに
命は面倒
使えない子は屑

利己心は冷たかった
魂を凍りつかせるほどに
虚栄心は恐ろしかった
痛めつけられ震えるほどに

死んだほうが楽
生きているのは辛い
一本のロープと
頑丈な支え

支えがあれば
出来るんだよ
死にに行くことも
生きようとすることも

街のビルは反射する
太陽の熱を爛れるように

拍手[1回]

粋がっていた若者が
年を取って人の上に立ったら
うさんくさい大人になりやがった

あの日 大人に対して
自らを主張していた暴力性は
弱者を叩く力に成り代わった

すました顔して座ってる
椅子を誰にも渡さないと
死守して蹴落とそうとしているだけさ

棺おけまで逃げやがれ
全速力で 姑息に 蒙昧に
プライドだけが肥大した塊

いつの日か
批判を繰り返していた若者が
手に持った釘を自分に刺すのが嫌で
誰かへ打ち付けるようになるのだろうか

それとも ただ静かに
誰も傷つけず 何も主張せず
何一つ行動しない
ただ何者かに振り回される
存在になるのだろうか

明日などないと 絶望する人たちの
たくさんの屍の上に幸福はある
痛みを誰かに押し付け 笑いあう

あの日 大人に対して
痛みを主張していた若者たちは
弱者に痛みを押し付けるようになった

すました顔して笑っては
背中であざけりと卑しさを浮かべ
弄び不幸を与える喜びを知ったのさ

もうすぐ棺おけに入れる
理知的な感傷もなく
幸福は自らのためだけに

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暗く不安な顔
垂れた髪の隙間
覗く瞳 潤んでいた
空港のゲートを出たベンチで
座っていた少女

まるで世界に
否定されているかのように
まるで自分を
疎んでいるかのように

腕を組んで嬉しそうに笑う
タバコを吸って息を落ち着ける

不安が少し飛んだ顔
髪をかき上げてやると
空港の狭い喫煙所で
少し戸惑う少女

ようやく新しい
世界を迎えたかのように
ようやく想いを
確かめたかのように

雨雲がついてまわる少女に
眩しいほどの晴天が広がった

熱いほどの太陽で
熱いほどの口づけで
バスに乗り込んだ少女は
青年の手を握り
始まりを予感した

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明日の朝には雪が降る
真夏の雷雨の後に
蒸し返すような水蒸気が
君を押し返すようにして

足跡をつけた子供たち
また夜に夢を見るのだろう
怖いお化けも出ずに
安心して深い眠りへ

猫は舌なめずり
あくびをして日差しを浴びる
季節はずれのストーブ
くるまってあたたまる

明日には真夏になるだろう
水遊びをして母が見守る
夕日が落ちたような光を散らし
手からはじけ飛ぶだろう

バイバイ 一日だけの真冬
明日の朝には溶けている
地下鉄の駅の前で
マフラーに包まれていた
あの子も もう見れない

きっとよくなる
白さが消えて
アスファルトの灰が街を覆っても
息を吸い 力強い瞳で空を見るだろう
時計は進んで一秒明日へと過ぎたとき
故郷で感じていた凍てつきもなくなり
この街本来のぬくもりに戻るだろう

踏みしめたタバコの吸殻を拾い上げ
携帯の灰皿に入れるあの子の横顔
彼に注意されてしぶしぶ拾っていた
仲良さそうに何処かへ行く
砂漠の駱駝に乗って何処までも
笑い合いながら行くのだろう

懐かしみに浸る時間も只一日
キラキラと輝いていた雪の結晶も
敷き詰められる間もなく
車輪と人に汚されて
見る影も無く 手の平に落ちても
見る間もなく 息がかかっただけで
溶けて甘く真っ白に溶けていった

終わったね 胸にとどめておこう
たった一日だけあった真夏の雪を
故郷で毎年見ていた あの景色を
想い出などと呼べるものが無くとも
匂いだけ 切なく鼻をくすぐった

子供たちは次の日
踏みしめるように濡れた路面を走り
友達と一緒に学校へと急いだ
いつもの通り

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数々のものを塗り替えて
数々のものを与えて
数々の認識を多様にする

ただ一生懸命に
ただ熱心に
ただ懇々と

君がどのように否定しようとも
君がどのように闇を見ようとも
数々の事実を作り上げて
数々の喜びを与えて
数々のぬくもりを刻む

たくさんの言葉よりも
たくさんの事実を
たくさんの恐怖の勘繰りよりも
たくさんの笑顔の時間を

否定してもしきれない
闇に塗り替えようとしても出来ない
たくさんの笑い顔と
たくさんの幸せを

ただ一生懸命に
ただ熱心に
ただ懇々と

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