今日は一口舐めとって
なあにちょっとだけさ
ばれやしないとたかをくくる
次の日
ぺろりぺろり
なあにこのくらいじゃ
減ったことにはならない
ばれやしないと思う
また次の日
ぺろりぺろりぺろり
減ったような気もするが
なあにばれやしない
だがいささか不安
次の日
周囲を見ながら
ぺろりぺろり
止めようと思ったが
どうにも止まらない
また次の日
なんてことだ
舐めるものがついになくなった
だがもう腹の中に入ったものだ
戻すことなんてできない
ぺろり
口のまわりを舌なめずり
ここにいてもしょうがない
用はなくなったからもういいや
ぺろりぺろり
戻ってきて
全部なくなっているのを見た人
驚き言う
なんてことだ
あれはみんなで分かち合うものだったのに
いったい誰がこんなことを
ぺろりぺろり
あなたの周りに
こんな音が聞こえたら
大事なものを
舐めとっていかれるかも
都会の人形たちは硫酸を浴びて
じりじりと肉を焼かれていくように
もがき逃れのた打ち回り夢を見る
ぶすぶすと朽ちていく心をぼかし
画面に映る麗しき幻想に抱かれようとする
手を伸ばし骨の見える指で
掴もうと掴もうと
誰のための命なのか
心を持とうと迷い続ける
見失い彷徨い枯れ果てる
涙をよこせ
優しさをよこせ
よこせよこせよこせ
心を潰し街というグロテスクな箱庭の中で
掴もうと掴もうと
壊れそうなのか
君の心は
君の優しさは
失くしていきそうなのか
君の感覚は
君の瞳の輝きは
騙され植えつけられ従いさせられ
それでも
掴もうと掴もうと
街を歩く血と肉は
街を動かす骨と飢えは
機械のように動く人形たちは
欲望という名の硫酸に溶かされていく
空を見たか
黒色の空を
ビルに塗りたくられた彩を
欲望の水の中でもがき
泥を巻き上げて濁らせた
希望の光が狭まっていくように
塗りつぶされていくように
人形たちが腕をもぎ足をもいで積み上げたビルの群
人形たちの足跡は怒号にも似た喧騒にすら消され
未来を望む声はか細く弱る
煽り立てるメインコンピューターの指令に逆らえずにいる
ある激しい雨の日
生まれ出でたあたたかな血と肉を持つ少女が赤い傘を差した
壊れ打ち捨てられた人形に
傘をそっと差し出した
人形は壊れた手を出せずに
少女をじっと暗い目で見ている
少女は雨が止むまでずっと傘を差し出していた
雨上がりの光
人形の濡れた顔に光が当たり
目元がきらりと光り
夜は明けてきていた
淡い熱を胸の奥にひそめ
いつか少女に恩返しをしようと
熱を冷まさぬよう
奥深くにしまい込んで
人形は願った
壊れるほどに
その願いを
掴もうと掴もうと
「愛」を語って壊しあい
「恋」を語って奪い去る
憎しみにすべてが変わる前に
思い出を積み重ねて
背中に残った傷痕に
「よかったね」と慰めかける
すべてが通り過ぎていくとしても
思い通りになった後に燃え尽きても
何もかもが不満で踏み出せなくても
何もかもが憎しみで壁を作っても
キミヲアイシテイタと言えるように
近づいて嘘をついて傷つけて
今のままでいいのだと
過ちは時の中にうやむやになって
気づいた真実は胸をえぐっている
欲しいものだけ手に入る世界はない
教科書はどこにもなくて
辞書に未来は書いていない
それは絶望とは呼べない飢えた求め
モトメルモノガモウナイと言わないように
自分の弱さに何度も涙を流した日々
いつしか人を疑って生きている自分
うらはらに愛が欲しくてたまらなくて
傷ついても正しいと思い込んでいた
理解が足りなくて硬く契りあっていても
わかりあっているからとその場しのぎ
ぬくもりだけ頼りに逃げ出したくなり
代わりを求めてさ迷う魂 汚れきる
心の弱りきった成れの果て
何もかも許せずに 最後に残った光も
小さく消え去りそうな向こう側
幻想の壁 現実は背後に
ワカリアッテイタと言えないままに
いつしか置き去りにされた
気がつけばどこかに忘れた
知ってゆくこともないままに
「愛」を語って壊しあい
「恋」を語って奪い去る
失った大きさですべてを知っていくのだろう
この街も人も置き去りにしたまま
少しでも大人ぶってあがく
守るべきことの意味を知り
少しだけ「愛」の理由を知る